九州各地には、それぞれの地域で発展した豚骨ラーメンが存在します。
その中でも熊本ラーメンは、異彩を放つすこしユニークな存在かも知れません。
九州のほぼ中央に位置する熊本。
雄大な自然に囲まれ、豊かなめぐみを受け取る熊本では、食材が持つ風味や旨味を大切にする食文化が育まれてきました。そして、そこにアクセントを加えて食材の良さをぐっと引き立たせるのも熊本流。その特徴は熊本ラーメンにもしっかりと受け継がれています。
スープは、豚骨の旨みとコクを十分に引き出しつつ、クセ・臭みを抑えたマイルドなさっぱり系の豚骨スープが主流。そこに加えられるアクセントが、熊本ラーメンの代名詞ともいえる焙煎ニンニクです。湯気とともに立ちのぼる焙煎されたニンニクの香り。芳ばしい香りが豚骨スープの旨みとコクをさらに引き立て食欲を刺激します。
焙煎ニンニクは、煎る、揚げる、香味油としてなど、お店ごとにさまざまなスタイルがありますので、その違いを味わってみるのも熊本ラーメンの楽しみ方のひとつですね。
麺は中細・中太ストレート麺が主流。食べごたえと喉越しの良さがあり、焙煎ニンニクの香りをまとったスープとの絡みが絶妙。
コク深いスープにモチモチの麺、そこに加わる焙煎ニンニクというアクセントがもたらす、旨みと香ばしい香りのハーモニー。熊本ラーメンならでは味をぜひお楽しみください。
今や日本国内だけでなく、海外でも親しまれるようになった九州の豚骨ラーメン。その歴史は1937年(昭和12年)福岡県久留米市に開店した、とある屋台が始まりとされています。当時は濁りの少ない澄まし仕立ての豚骨スープで提供されていましたが、10年後(昭和22年)久留米市の別の屋台ラーメン店で、偶然の産物として白濁した豚骨スープが誕生します。
店主が火をかけたまま外出し、うっかり高火力で長時間沸騰させてしまったスープは濃く白濁。作り直す時間もなかったため、とりあえず味付けしてみたところ・・・深いコクがあって実にうまい!この白濁した豚骨スープは瞬く間に評判となり、人気店として久留米以外にも支店展開を開始。他店も次々とこの白濁した豚骨スープのラーメンを提供し始め、やがて九州各地に伝播していったのでした。
熊本に豚骨ラーメンがやって来たのは1952年(昭和27年)。先ほどの人気店が、久留米にほど近い熊本県北西部の玉名市に支店をつくったのが始まりです。
翌年(昭和28年)、評判を聞ききつけた3人の青年が、熊本市からその玉名のラーメン店を訪問。味に衝撃を受けた彼らは、すぐさま熊本市に豚骨ラーメンを持ち込みそれぞれが別に開業。こうして、後に熊本ラーメンの元祖と呼ばれる3つのラーメン店が創業されたのでした。
3人の青年によって熊本に久留米ラーメンの技術がもたらされましたが、彼らは久留米の味をそのまま踏襲するのではなく、独自の工夫で新たな豚骨ラーメンを生み出しました。
その最初の工夫が焙煎ニンニク。豚骨の臭みを和らげるのが目的だったと言われていますが、焙煎ニンニクの香ばしさは、それまでの豚骨ラーメンにはなかった新たな味のアクセントになりました。
狐色に揚げたニンニクチップは、香ばしさとカリッとした歯ごたえを。ニンニクを焦げ色になるまでじっくり揚げてつくる「焦がしにんにく油」は、香ばしさにほろ苦さという新たなパンチを加え、久留米発祥の豚骨ラーメンは熊本独自のラーメンへと変貌を遂げたのでした。
久留米ラーメンの譜系にありながら、他の地域とは異なるユニークな発展を遂げた熊本ラーメン。
あらためて、ご当地ラーメンとして知られる伝統的な熊本ラーメンの特徴を挙げてみます。
当然スープは豚骨。豚骨の深いコクを引き出すスープづくりがされる一方、まろやか・マイルド・さっぱりといった口当たりの良さとの両立も追求されてきました。
「呼び戻し」製法で濃厚な旨みを追求する久留米ラーメンに対し、熊本ラーメンはスープのフレッシュさを重視した「取り切り」製法が主流。さらに、鶏ガラや野菜を加えて味に奥行きを持たせつつ、豚骨臭を抑えるといった手法も取られるようになりました。
豚骨スープの臭みを抑える目的で加えられたというのが定説。久留米、博多ラーメンでも生ニンニクはよく使われますが、焙煎ニンニクを使うのは熊本ラーメン最大の特徴です。特に「焦がしにんにく油」の香ばしさとほろ苦さは、熊本ラーメンならではの味わい。
熊本では「焦がしにんにく油」や「ニンニクチップ」をボトルに詰めた商品がスーパーやお土産物店に並び、さまざまな料理の調味料としてご家庭でも使われています。
伝統的熊本ラーメンの王道は、中細から中太のストレート麺。コク深い豚骨スープと焙煎ニンニクのパンチのある香ばしさをしっかり受け止め、スープとの一体感をつくりだす存在感のある太さの麺です。また、スープが染み込みやすい低加水麺が主流で、食べ進むごとにスープとの一体感が増していくのも特徴です。
博多ラーメンの細麺・極細麺が歯切れの良さを楽しむ麺なら、熊本ラーメンの中細・中太麺はコシとモチモチした食感でスープとのハーモニーを楽しむ麺と言えそうです。
チャーシューやネギといった全国定番のトッピングはさておき、熊本ラーメンといえばやっぱりキクラゲ。もはや切っても切れない、欠かせない存在です。
ツルツル、モチモチとした麺の食感に、コリコリ、プリプリとしたキクラゲの歯ごたえが絶妙なアクセントに。キクラゲ自体は味が強い食材ではないので、コクのある豚骨スープや焙煎ニンニクの風味を邪魔することなく、むしろその食感とともにラーメンの味を際立たせてくれる「名脇役」です。
ここで挙げたのは、あくまでご当地ラーメンとしての「熊本ラーメン」の特徴です。
近年は、博多や久留米、玉名に近い特徴の豚骨ラーメン、魚介などの非豚骨系ラーメンなど、熊本のラーメン店のバリエーションも増えています。
様々な美味しいラーメンを食べられるラーメン大国。熊本がそう呼ばれ賑わうように、わたしたち黒亭も日々心を込めてラーメンをつくり続けたいと思います。
実は熊本は、水がとても美味しい街なんです。「蛇口をひねればミネラルウォーター」というのが熊本民の自慢だったりします。地下水が豊富で、熊本市の水道水のほぼ100%が地下水。それも、阿蘇山の噴火で堆積した火砕流の地層をゆっくりと20年掛けて浸透した、ミネラルをバランスよく豊富に含む地下水なんです。
一度県外でスープを炊いた時に、熊本での味が出せず本当に苦労したことがありました。
熊本にいるとなかなか自覚できないのですが…
熊本の水で炊き上げる豚骨スープは、やっぱり美味しい!
熊本ラーメンの豚骨スープがマイルド系に進化したのは、熊本の水が美味しいからでは?なんて意見を聞いて、妙に納得したことがあります。
熊本にお越しの際は、ぜひ熊本の水の美味しさも味わってみてください。